元選手が現役選手をリスペクトするには

最近、サッカー日本代表の冨安健洋選手と、元代表で解説やコーチを務めている内田篤人氏とのやり取りが話題となった。冨安選手が日本代表経験の豊富な香川真司選手にアドバイスをもらったというエピソードを紹介したところ、内田氏が香川選手のことを茶化すような発言をしている。

このやり取りを知った香川選手がSNSで苦言を呈し、そのことがいくつかの議論を呼んだ。内田氏の発言を批判する人がいる一方、香川選手に対しては「SNSにポストするのではなく直接内田氏に連絡すれば良かったのでは?」という意見もあった。

この後、内田氏と香川選手が直接対話し、当事者同士にわだかまりは残らなかったようで何よりだが、一連の出来事の中で、香川選手がポストした内容が印象に残った。「現役を引退し言葉を発する仕事につくのであればアスリートへのリスペクトは持つべき」というところ。

種目にかかわらず、スポーツ中継では元選手が解説するパターンが多い。その中には、解説というよりも応援するだけに近い解説者もいる。試合後インタビューでは現役選手との仲の良さがやたらと強調されて、選手の思考や感情を深掘りするような質問はあまりされない。そもそも各メディアでは、選手の素顔だとかプライベートの部分を多く取り上げている。こうした「選手を身近に感じる演出」があふれる環境で、選手へのリスペクトを表現することなんてできるのだろうか。

元選手は選手だったわけで、現役選手の苦労は痛いほどわかるはず。だからといって、褒めたりねぎらったリするだけではリスペクトにはならない。インタビューで「良いプレーでしたね」と投げかけたところで、選手は「そうですね」と返すくらいしかない。もっと準備された質問をした上で、選手とやり取りするところが見たい。解説を含むメディアが選手をリスペクトするには、選手が考えて話す機会を提供できるよう適度な距離感を保つことが必要ではないだろうか。一定距離の関係だからこそ、試合に負けた選手に厳しい質問をぶつけることができるのだと思う。

こんなことを思うのはスポーツ観戦オタクの私くらいだろうか。ファンや視聴率の獲得には、選手の親しみやすさを優先すべきという考えは理解しているつもり。でも、選手の好きな食べ物や趣味とかじゃなくて、試合中の思考とかねらいについてしっかり解説して欲しいんだよな。

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